お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
三日後、約束の七時を少し過ぎて智哉が待ち合わせの駅に現れた。
コンコースの端で駅ビルのショーウィンドウを眺めていた私が気づいたのとほぼ同時に向こうも私を見つけたみたいで、手を上げて駆け寄ってくる。
「悪い。遅れた」
「ううん、平気。そっちは仕事大丈夫?」
「ああ、マッハで終わらせてきた」
ふぅと一息吐くと、首を鳴らす。
本当に忙しいのに時間を作ってくれたみたいだ。
いつでもよかったんだけど。
申し訳ないと思いつつ、やはりどこか嬉しくて私はそわそわしてしまう。
「き、今日は車?」
「乗ってきてるよ。今日は俺が運転してきたから駐車場に停めてる。運転手は返した。デートに付き合わせるのも悪いだろ」
デート。
耳がそこだけひと際大きく拾う。
い、いや、他意はないはず!ただ男女が食事をするだけの意味であって!いや、でも向こうは私と結婚するつもりけど!だけど……!
一人で脳内で言い合っているうちと智哉が首を傾げた。
「何ボーっとしてるんだよ。この近くだろ?行こうぜ」
「う、うん」
我に返って歩き出す。その手を不意に繋がれて私はビクッと肩を跳ね上げた。
「なっ!?」
「いいだろー。ナビがてら手引っ張ってってくれよ」
子供みたいなことを大人の余裕が滲み出る顔で言ってのける。
私は金魚みたいに赤くなって口をパクつかせる。
だって、その意地悪な顔がちょっとかっこいいと思ってしまった。
智哉は私の反応を楽しんでいるかのようにニヤニヤするものだから、カッとなって手を振り払った。
「甘えんじゃないわよ!」
「冷たいなぁ」
わざとらしく傷ついた声を出す。
だ、騙されないわよ。
こいつは社長になるためにおばあさんの機嫌取りだけで私と結婚しようとする奴だ。
それなのに智哉のことになると一挙一動を敏感に反応してしまう。
この感覚を知っているのに、認めたくない。
全て気の迷いとして処理するべく動揺を頭の隅に追いやった。