お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
駅から十分程度歩いた場所にレストランはあった。
『蓮』と小さく看板を掲げた西洋のレンガの門構え。
「ここ」
「へぇ、お洒落じゃん」
智哉がレストランの外装を眺めながら言った。
前に智哉に連れていかれた料亭に比べたら歴史はないけど、味は間違いないはず。
ガラス窓のついたドアを開けて入るとドアベルがカランとクラシックが流れる店内に響く。
「いらっしゃいませ」
「予約していた藤野ですが」
「はい、少々お待ちください」
レジにいた若い女性店員に告げると、彼女は予約票を確認してにこりと微笑んだ。
「お席にご案内いたします」
そういって店の奥へと誘われた。店の中はほぼ満席で、四人掛けのテーブル席をロールカーテンで仕切る作りだ。
完全密室ではないから声は漏れ聞こえてくるけど、平日で飲み会もないのかうるさくはない。
「ご注文お決まりになられましたら、お呼びください」
彼女が一礼して去っていく。智哉はメニューをテーブルに広げた。
飲み物のページで智哉はアルコールの欄を前に残念そうに唸る。
「今日は飲めないからなぁ」
「好きね。お酒」
「まぁ作ってる側だから愛着はあるな。あ、お前は飲んでいいからな」
「私が弱いって知ってて言ってるでしょ」
「酔っぱらってもまた連れて帰ってやるよ」
ニッと微笑まれてまた声が詰まる。こっちは普通にしようとしているのに、不意打ちで優しい言葉とか笑顔を投げ込まれると、どう返したらいいのかあわあわする。