お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
未来
智哉が出張に行って五日が経った。
私は昼休みに自分のデスクでボケッとコーヒーを飲んでいた。
智哉からは連絡はない。
連絡できないと宣言されていたから仕方ない。
ただ、やはり寂しくなる。
あの夜の出来事が日を追うごとに夢だったかのような、未だに私をふわふわした感覚が包んで現実味が薄れてくる。
こんなものまで描いちゃって。
私は自分のデッサン画を捲ってため息を漏らした。
『撫子桜』のパッケージのデザイン画。
小瓶タイプとワンカップタイプの二種類を考えた。
どちらも薄く青みがかった曇りガラスの瓶で、水面に浮かぶ桜の花びらの水墨画そのものが浮かんでいるように見せた。
もちろん、智哉に見せるつもりはない。
ただ、たまたまスーパーで『撫子桜』を見かけて、智哉のことを思い出して、つい買ってしまった。
それを舐める程度に夜飲んでいると、イメージが沸きだしてきて、鉛筆で頭の中のイメージを描きだしていた。
一度、思い浮かんだものは形にしないと消化不良のように気持ち悪くなる。
智哉と会えない時間、家でひたすら描き続けていた。
それが完成した今、気が抜けたように脱力してしまう。
そもそも仕事でもないのに必死に描いて、色まで丁寧に塗って癖で指示だしのコメントまで書いて。
完璧な自己満足の作品を冷静に見つめると恥ずかしくなってきて、デッサン画を閉じる。
「何やってんだか……」
「藤野さん」
突然背後から声がして、思いっきり椅子の上で身体が跳ねた。
振り返るとありさが仁王立ちしてこちらを睨んでいる。