お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
ありさも私の言葉で思い出したようで苦笑いを漏らす。
「あの時は私も叩かれると思いました。でも、手を下ろしたでしょ。そこでやっぱりこの人に負けたと思いました。私が何をしても『落ちない人』だって」
「それは……」
「私なら間違いなくぶん殴ってます。そして、そう仕向けたのにあなたは乗ってきませんでした。あなたはどこまでも澄んだ水みたいな人なんですね。ちょっと、羨ましかった」
ぽつりと最後漏らした声が小さな女の子みたいだった。
俯く彼女は今にも消え入りそうで思わず手を伸ばしかけたけど、すぐに顔を上げた。
その眼差しは好戦的な、いつもの勝気なありさに戻っていた。
「本題に入りますけど、今回の件は、私が婚約する上で花を持たせようと父の意向が反映したようです。申し訳ありません。もう二度としないように言っておきました。リップのデザインも藤野さんに戻すように……」
「それはだめ」
「え?」
「一度仕事を受け持ったのだから、やり通すべきよ。今私にかわったら父親の力を使ったって一生言われ続けるわよ。それなら、ちゃんとこの仕事を全うして実力で任されたって周囲に証明すべき。何よりデザイナーがコロコロ変わるのは周囲の迷惑」
仕事モードで言い切るとありさはポカンと口を開けた。
上品な顔立ちが崩れたかと思ったら、次の瞬間彼女が爆笑しだしたから、今度はこちらが固まる番だ。
「あーっ面白い。藤野さんって本当に変わってる」
「いや、あなたに言われても……」
キャラの濃いありさに変人扱いされるとさすがに傷つく。
私、変なこと言ったかしら。
自分の言動を反芻したら、ありさが嘆息を漏らした。