お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「本当に誰にでも『平等』。あなたのいいところでもあり、悪いところですよ。達彦はそこが寂しかったみたいです」
「え?」
「あなたの特別にはなれない。常に自分より他を優先させて一番周囲が幸せになる選択をする。そういう自己犠牲のせいであなたに選ばれなかった人間は惨めになるんですって。最初はあなたとの恋愛相談乗ってて、よく飲みながら零してました。あなたは誰にも甘えないでしょ。達彦は寂しかったのを我慢していたみたいです」
うそだ。
そんな素振り見せなかった。
私から告白して、いつも私が連絡を待って、嫌われないように達彦の意見に頷いて、自分の本心を見せないように一線引いて……。
もしかして、達彦もそうだったの?
私がいつも身構えていたから、踏み込んでこれなくて、どう扱ったらいいのか手に余してしまったのかもしれない。
今になって気づくなんて。
ありさを選んだ彼を恨むことばかりで、彼が別れを切り出すまであの過程なんて目も向けなかった。
ずっと、自分とありさを比較して嘆いていた。
ようやく、彼とのことが過去として扱えるようになった今聞いたからこそ、受け止められたのかもしれない。
きっと、別れてすぐ、しかもありさの口からこの話を聞いても絶対信じなかった。
ありさは壁に凭れていた背を離すとゆっくりと私に一歩近づいた。
「仕事の件はわかりました。私にゆずったこと後悔しないでくださいね」
「ええ、私は私でまた仕事を全うするから」
常に自分に与えられた仕事を完璧に仕上げる。
それが私がこの仕事に就いて自分に課したことだ。
リップの仕事は心の底ではやはり未練がないとは言えないけれど、一度離れた仕事を無理矢理私のエゴで戻すのは違う気がする。
一人ではなく、チームで動いているのだ。
完璧なものを作るために輪を乱すことは美しくない。
これがありさの言う『平等』なら当てはまるかもしれない。