お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「疲れてるから明日じゃだめ?」
「散々無視されて、俺は多大な時間のロスとストレスを被っているんですが」
冷徹な顔と声で言われる。
もう少しの時間稼ぎも許さないらしい。
私は諦めて鞄から鍵を取り出した。
鍵を差し込んで解錠する。
「入って」
ドアを開くと智哉に言った。
本当は部屋に上げるべきではないのはわかっている。
だけど、掴んできた手の冷たさから何時間ここで待っていたのかと思うと非情になれなかった。
部屋の電気をつけて、エアコンを入れる。
秋とはいえ、晩秋だから夜はもう暖房をつけないといけないくらいの気温に下がる。
智哉をソファに座らせて、私は向かい側の床に腰を下ろす。
「こっち座れば」
「いい」
隣を目で示されたけど、首を振る。
極力智哉に近づかないほうがいい。
彼の体温を少しでも感じれば、さっきみたいに気持ちが絆されてしまう。
でも、真正面に座ったことも少し後悔した。
否が応でも彼が視界に入るから心が揺れる。
私は俯きがちで二人の間にあるローテーブルの上のハーバリウムを見つめた。
「この前は結婚するって言ったのに、どうしていきなり破談にした?」
痛いほどの沈黙を破ったのは智哉だった。
私は頭の中で何度もシュミレーションした言葉を声へ乗せる。
「やっぱり、好きじゃない人とは結婚できないから」
私がそう言った途端、ビリビリと音がしそうなほど空気が張り詰めるのがわかった。
負けるな。
怖気づきそうな自分を鼓舞して、私はお得意の『冷めた』表情で沈黙を破っていく。