お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「いや!離し……」
「今更!」
抗う私の声を智哉の声がかき消した。
「今更、嫌とか言うなよ!」
語気を荒げたそれは悲痛な響きで鼓膜を揺らす。
思わず、動きを止めた私は覆いかぶさる彼を見上げた。
「頼むから俺のこと好きだって言えよ」
対照的に今度は消え入りそうな弱弱しい声音。
私を見つめる瞳は先ほどまでの鋭さもなく、頼りなく揺れて、ただ切願していた。
「ど、どうして……そんなに私にこだわるの?」
彼を仰ぎながら、ぽつりと本音が漏れた。
ずっと不思議だった。
本当に社長になりたいから祖母の言う通りに私と結婚するのか。
「新しいお見合いがあるんでしょ?私より条件のいい社長令嬢で、きっと『葉山酒造』にも色々と利益が出そうな話なんでしょ?」
数日前に、ありさから聞いた。
予想していた通り智哉には他にも見合い話を持ち掛ける家が多く、ありさの幼馴染もそうだった。
『食品メーカーの社長令嬢なんです。その子は元々葉月さんのこと気に入っていたので、向こうが無理くり頼んでから、断られるでしょうけど』
ありさが私に気を遣いながらそう話してくれた。
言外に条件がいい見合い話だということは、歯に衣着せるありさの口調が鈍いものだったからすぐに伝わってきた。