お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「バカ」
一拍の沈黙の後、智哉は呆れた様子で言うと私をそっと抱き起こした。
そのまま自分の膝の上に私を乗せる。普段見上げる彼と目線があって、大きく鼓動が脈打った。
「俺は、嫁さんの力ありきで会社をでかくしていこうなんて考えていない。でかくするなら自分で切り開く。嫁さんも守る。でも、俺も完璧じゃねぇから心が折れそうになる時も来るかもしれない」
未来がどうなるかなんて誰もわからない。
彼も不安を抱えている。誰かの上に立つということは責任を人より負うということだ。
智哉は私の頬にそっと手を置くと、優しく微笑んだ。
「その時、桜子は『仕方ないね』って笑ってただ俺と一緒にいてくれればいいんだ。そしたら、またすぐ戦えるから。お前も仕事が好きなら続けたらいい。無理に家庭に収まらなくてもいい」
「智哉……」
「もし、今この手を離して、お前が他の男の女になるなんて考えただけでも腸が煮えかえる。そっちのほうが俺は耐えられそうにない」
「なぁ、どうすればいい?」とコツンと額同士を合わせてくる。
あまりにも嬉しい問いかけに私はつい顔を緩ませてしまった。
「あんたのほうがバカよ」
可愛げのない言葉が出た。
照れて私の悪い癖だ。智哉はそれをわかっているから、同じように笑った。
「私でいいの?」
「いいって何回言わせるんだよ」
軽くデコピンされた。軽い痛みに「ごめん」と小さく謝ると智哉が詫びるようにそっと額を撫でた。
「今度会ったら『可愛がる』って言ったよな」
額から耳、そして頬へ。大きな手が撫でるように移っていく。
「覚悟はできてる?」
低く、甘い声音。その瞳の奥には猛るような情熱の炎が揺らいでいるのが見えて、ぞくりと身体が震えた。
答えるかわりに目を閉じるとやがて唇に柔らかな感触が降ってくる。
それは、さきほどの荒々しい、怒りに任せたものとは違う、愛しみで満ちたとても優しい口づけだった。