お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「ん?」
ふとアンパンを手に持つ智哉と今朝の夢に出た人物がダブる。
「ちょっとストップ」
「あ、アンパン食べたかった?」
「違う」
ソファに座ってアンパンに齧り付こうとしていた智哉に近づいていって置いてあったタオルで髪を覆う。
じっとその顔を隅から隅までまじまじと見つめた。
「すごい既視感が半端ないんだけど」
「あー、ごめん。あれは俺だ」
観念したように智哉が両手を上げる。
私は半分はそうかもと確信していたけど、いざ本人が認めるとどうにも反応が遅れる。
だって、あの不良が御曹司。どこがどう繋がったら想像できるというのか。
「黙ってて悪いと思ったけど、覚えてないみたいだったし。それに、あの頃俺はグレてて、全然様相が違ったから気づかないかなぁと。気づかれて嫌われるのも嫌だし。一度フラれてるわけだからさ」
バツが悪そうに私が被せたタオルを取り去る智哉。
そうだよね、フラれてるとなかなか言い出しにくい……
「いやいやいや、待ってよ!いつから私だって気づいてたの?」
「えーっと……まぁ、いいじゃん。両想いだし!」
「よくない!」
笑顔で誤魔化す智哉に詰め寄ろうとした時、携帯が鳴る音がした。
私のものではない呼び出し音に智哉が脱ぎ捨てていたスーツの上着のポケットからスマホを取り出すと画面を見て一瞬瞠目した。
それからすぐに画面をタップして通話に出る。
「もしもし」
真剣な面持ちで電話口の相手の声に耳を傾ける智哉に誰からだろうと首を傾げる。
仕事関係者かな。
そう思っている間に「わかりました。すぐ行きます」と智哉が通話を切った。
それから真剣な表情のまま私へとゆっくり顔を向けた。
「ばあさんが俺の見合いのことで話があるってさ」