お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~



「だから、あなたのほうこそいいのかしらって思うわ。こちらからこの縁談の話は無理にもち掛けたし」

「へ?」

「ばあちゃんっ!もうその話はいいよ!」

「何がいいのよ。散々我儘言って……あ、これよ」




立ち上がった清子さんが座敷の地袋の戸を開けて中から冊子を取り出した。


カラーの表紙は見覚えがあるものだった。



私の実家が春と秋に出している着物のカタログだ。


カタログといっても、十数ページの薄いもので、別に大手の着物メーカーのカタログを使えばいいのに、カメラマンとして働いていた父親がどうせスタジオがあるならお客様が見やすいように纏めたほうがいいと作っている。





実際は自分のカメラの趣味だと思う。モデルは私や姉、従妹などを起用して、プロに頼むとお金がかかる分を浮かして印刷費用に回している。


お小遣い稼ぎで何度か手伝ったことはある。


これは今年の春夏物のカタログだ。




「あなたのおばあさんとは仲良くさせてもらっていてね。私も着物が好きだからよくカタログをもらっていたの。それを家で見ていたら、たまたま帰ってきたこの子がいきなり『あ!』って大声だしてね」




カタログをテーブルの上に置くと清子さんは思い出し笑いを浮かべた。




「『ばあちゃん、この子!』って言うのよ。それで、どこの呉服店のパンフレットだって訊くから私の親友のところで、この子はそのお孫さんよって教えてやると『どうしてもこの子と会いたい!繋いでくれ!』ってしつこく騒いでねぇ。いい歳した孫の我儘で申し訳ないって頼んだのよ。カタログもこの子が持っていっちゃったから、またお店にもらいに行ったのよ」





驚きのあまり智哉を見るけど、視線はまた庭のほうに固定されている。


でも、その頬が真っ赤に染まっているから清子さんの話は本当のようだ。




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