恋は盲目、愛は永遠
「あ、あの鈴太郎さんっ!」
「どうした唯子」
「私の仕事ですが・・・」
「それなら今日付けで退職したことになっている」

・・・え。

「心配するな。唯子の代わりに谷川産業へ行かせる社員は選別済みだ」
「あ、あの・・・」
「急な話で谷川産業の庶務課には迷惑をかけたからな」
「りんたろうさ・・・」

「会社で働く社員の代わりはいるが、私の妻は代えが利かない」

私の顔や背中から、冷や汗が流れてきた気がする。
いつの間にか私は、行く道が設定されてしまっていた。
鈴太郎さんの元へ行くしかないように。

「そうですか」と心ない言葉でつぶやいた私に同情したのか、助手席に座っている福島さんが「坊ちゃん。やっぱり唯子ちゃんに・・・」と言いかけた途中で、鈴太郎さんが、「唯子様と呼べと言ったはずだが」と、よく通る低い声で遮った。

「あの!私のことは唯子と呼んでください!」と気づけば私は叫んでいた。

< 53 / 298 >

この作品をシェア

pagetop