一途な社長の溺愛シンデレラ

 住宅街を数メートルほど行ったところで社長が足を止め、私はいつものように電柱の陰に隠れた。

「遼介! 遅いじゃないのよ!」

 尖ったヒール靴の女の声は、日に日に甲高くなり、いまや金切り声になっていた。

 外見は相変わらず清楚な雰囲気で、その落差が彼女の必死さを物語っているようだ。

「いつまでそうやって無視を続ける気? そっちがそういうつもりなら、こっちにだって考えがあるんだから!」

 髪を振り乱すように叫ぶ女の前を、社長は無言のまま通りすぎる。

「待ちなさいよ!」

 後ろから腕を掴まれて、社長は立ち止まった。

 柔らかな色合いのエントランスライトに照らされた端正な顔は、無表情だ。

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