一途な社長の溺愛シンデレラ

「失礼します」

 抑揚のない声で言い、広い背中はマンションのエントランスドアをくぐっていった。

 取り残された彼女は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 それから、ぶつぶつと、少しずつ湯が沸騰していくみたいにつぶやきはじめる。

「なによ……なによ……なによ!」

 ベタ塗りのイメージが、瞬時に頭に浮かんだ。

 赤、青、黄、黒、白。

 主張の強いはっきりした色の帯が、彼女を中心に中空を塗りつぶしていく。

 それは、彼女という容れ物を破壊して飛び出してきた激情のように思えた。

 感情が爆発するというのは、こういうことをいうのかもしれない。

 自分の中にはない“激しさ”をそっと観察していると、ふいに彼女が叫んだ。

< 193 / 302 >

この作品をシェア

pagetop