一途な社長の溺愛シンデレラ
「失礼します」
抑揚のない声で言い、広い背中はマンションのエントランスドアをくぐっていった。
取り残された彼女は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
それから、ぶつぶつと、少しずつ湯が沸騰していくみたいにつぶやきはじめる。
「なによ……なによ……なによ!」
ベタ塗りのイメージが、瞬時に頭に浮かんだ。
赤、青、黄、黒、白。
主張の強いはっきりした色の帯が、彼女を中心に中空を塗りつぶしていく。
それは、彼女という容れ物を破壊して飛び出してきた激情のように思えた。
感情が爆発するというのは、こういうことをいうのかもしれない。
自分の中にはない“激しさ”をそっと観察していると、ふいに彼女が叫んだ。