一途な社長の溺愛シンデレラ

「許さないわ!」

 カバンから携帯を取り出して耳にあてる。その様子を見て、とっさに身体が動いた。

「あ、パパ? あのね――」

 暗がりから突然現れた私に気づき、彼女はぎょっとしたように後ずさった。その拍子に携帯が滑り落ち、ガシャッと音を立てる。

 地面に落ちたそれを拾い上げ、さりげなく終了ボタンを押して彼女に差し出した。幸い画面は割れていない。

「な……なに」

 おそるおそる携帯を受け取り、彼女は幽霊にでも遭遇したような顔で私を見下ろす。

 甘い花のような香りがした。エントランスライトの弱い光に照らされた彼女は、とても美しい大人の女だった。

 社長はこういうタイプが好きなのかなとぼんやり思いながら、彼女の目を見返す。

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