一途な社長の溺愛シンデレラ

 ぶつぶつ言っている社長の言葉は誰の耳にも入っていない。

 絵里奈がテーブルに頬杖をつき、大きく息を吐いた。

「ああ、私も一途に愛されたーい!」

「絵里奈……うるさい」

 私の低いつぶやきに、彼女ははっとした顔をする。

「はい! 眞木絵里奈、仕事に戻ります」

 空いた菓子袋を屑箱に放り込み、そそくさと事務机に向かう。

 優しい社長の注意には聞く耳を持たなくても、私の無感情な言葉は怖いらしい。

「はは、いいコンビじゃねえか。天然社長を手のひらで転がしながら、反対の手で従業員をあやつる、影の女ボスの誕生か」

 なにやら人聞きの悪いことを言いながら、御池さんが呑気な声で笑う。

 私の目の前には相変わらず花が浮いていた。レースで編み込んだ繊細な花々のなかで静かに存在を主張するのは、石でできた白いバラだった。







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