一途な社長の溺愛シンデレラ

「決めなきゃいけないことが、たくさんあるな」

 キッチンで手早く夕食の洗い物を済ませると、社長は右手にワインのボトルを、左手の指に逆さにしたワイングラスをふたつ器用に挟んで持ち、こちらにやってくる。

 私はソファの上で三角座りをしながら膝にスケッチブックを広げて、窓の外の風景を写し取っていた。

「マンションて、更新時期じゃないときに出ると違約金が発生するんじゃないの?」

 夜の街に目を落としたまま言うと、社長はすかさず答える。

「ないよ、そんなの。それにあれはうちのマンションだし……あ」

「……うちのマンション?」

 振り返ると、私のすぐ後ろに座ってワインを飲んでいた彼は、決まりが悪そうに目を逸らした。

< 291 / 302 >

この作品をシェア

pagetop