一途な社長の溺愛シンデレラ
目を閉じて、鳥のさえずりと小川のせせらぎに耳をすませた。
深い森のなかで、空を見上げる。木々を揺らす風はひんやりとしていて、空気は驚くほど澄んでいる。
膨らみかけたイメージを今まさにスケッチブックに描こうとしたところで、思考が中断された。
「ダメだ!やり直し」
フロアを震わせる声が、ヘッドフォンをしている私の耳にまで届く。
もっとも、聴いているのは音楽ではなくヒーリング音、つまり山の中で聞こえる自然の音そのものだから、フロアの雑音はほとんどヘッドフォンを通過してくるわけだけど。
「こんな企画で本当にクライアントの心をつかめると思ってるのか!」
社長がドン、と机を叩いた。
その拍子に机の隅に置かれたコーヒーのテイクアウトカップがかすかに動く。
今日の不機嫌レベルは2といったところらしい。
ちなみに不機嫌レベルはMAXが3だ。