一途な社長の溺愛シンデレラ
「しっ。本人は内緒にしてるから、誰にも言わないでくれよ」
「え、じゃあ西村さんはなんで知ってるんですか」
「社長と同じ大学の友達に聞いたんだ。学生の頃はやっぱりそれなりに有名だったらしいからさ」
「なるほど……」
ふたりの会話を聞きながら、私はいつのまにか呼吸を忘れていたことに気付いた。
まわりに気づかれないように、細く息を吐き出す。
グラスを持ったままだった手が、冷たくしびれていて、慌ててテーブルに置いた。
両手をこすりあわせながら、もう一度小さく息をこぼす。
ほとんど同時に絵里奈がため息をついた。
私がついた息とは種類の異なる、感嘆の吐息だ。
「社長って、実はものすごいお坊ちゃんだったんですね……」
「そうなんだよ。選ばれし者しか持てないバックグラウンドがあるってのに、社長はそれを一切使わずに、自分の力だけで会社を軌道に乗せてるわけ」