一途な社長の溺愛シンデレラ
私の世界は、いつも頭のなかにあった。
そこには無限の海があって、果てのない空があって、時を刻むように進化を続ける動植物と、味のついた風があった。
物心ついた頃から、私は頭のなかに広がる世界で生きていた。
扉を開けると、現実が見えてしまうから。
優しい母の、痣のついた顔が見えてしまうから。
耳にイヤホンをはめて音楽を聴きながら、押し入れの奥に隠れて、母がふたたび扉を開けてくれるまで、私はいつも待っていた。
母に暴力を振るっていた父親が事故で死んだのは、私が5歳のとき。
ほっとしたのも束の間、母が昼夜問わず働きに出るようになると、私はまたひとりの時間が増えた。
頭のなかに広がり続ける世界を最初に紙に描きだしたのはその頃だ。
ただひとりで黙々と、誰に見せるでもない絵や立体を作り続ける。
それだけでは飽き足らず、12歳のとき、私はボタンを押した。