一途な社長の溺愛シンデレラ
そんな倹約家の社長でも、デスクと椅子だけはいいものを揃えてくれている。
やみくもに倹約に走るのではなく、使うべきところでしっかり使う。
結城遼介はそういう男だ。
良い作品を生み出すためには、労力も費用も惜しまない。
「よし、これでいこう」
タブレットの画面をこつこつ叩くと、社長は壁の時計に目をやった。
「ぎりぎりまで粘った甲斐があったな。午後のブレゼンには沙良、おまえも来い」
「え……」
感情が顔に出てしまったらしい。社長は私の反応を予測していたみたいに皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「お偉いさんがずらっと並んだところには、行きたくないか?」
「話すのは、苦手だし……」
「説明は俺がする。おまえは立ってるだけでいい。たまにはクライアントの反応を直に見るべきだ。今後の参考にもなる」
「でも……」
私が自分の格好を見下ろしたことに気づくと、社長は「ああ」と納得したように息をつく。
「まったくおまえは……仕方ないやつだな」
うちの家賃の二倍はする椅子から立ち上がると、彼は私の頭をわしっとつかんで絵里奈に声をかけた。