一途な社長の溺愛シンデレラ

 社長は躊躇するように私に近づくと、ゆっくりファスナーを上げていった。

 彼の手が背中をのぼっていくにつれて、ゆったりしていた上半身の布がきゅっと体にフィットしていく。

「新井さんの仕業か……くそ」

 頭上で小さくこぼしている社長を振り仰ぐと、彼はあわてたように眼を逸らした。

「どうしたの?」

「……いや」

 なんだか急に歯切れが悪くなった社長を不思議に思いながら、私は自らを包むドレスを見下ろした。

 一昨年の冬に西村さんの彼女から借りたチャイナドレスは、サイズが少し大きくて借り物感がぬぐえなかったけれど、この衣装は私の体にぴったり合っている。

 さらりとした手触りはなめらかで、縫製も細やかだし、全体的に質が高い。

 ファッションに疎い私でも、このドレスやさっきの服が安物ではないことだけはわかる。

「この服、なにに使うの?」

「全部、お前のだよ」

「え……」

 私と視線を合わせないままベッドに腰掛ける社長を、まじまじと見つめる。

 形のいい唇を不自然に歪ませながら、彼は言った。

< 75 / 302 >

この作品をシェア

pagetop