今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「俺は、生涯通じて琴が最後の女でいいと誓った。同じ誓いを求めやしないが、俺に命がある間くらい、俺だけを見ていろ。そう望むのも無駄なのか?」


ハッと短く浅い息を吐き、総士はギリッと奥歯を噛み締めた。


「琴、なぜ簡単に不貞に走る!? しかも俺の家の前で……。そこまでして俺に失望させたいか!?」


言っているうちに、総士の声の勢いは増していく。
彼は荒れ狂う怒りを全身に漲らせ、まるで絞り出すように怒鳴った。


今まで見たこともない総士の激しい気性を目の前にして、琴の胸はドキドキと早鐘のように打ち鳴る。
全身の至る所で血管が脈動する感覚は、恐怖からか焦りからか、はたまた、どうしていいかわからない緊張からか。


この屋敷に来て、震え上がる思いは何度もした。
しかし、総士の感情はいつも波立つことなく平坦で、彼自身を恐れたことは一度もなかった。


(恐れる……? 違う。総士さんは怖くない。だって、私は知ってる。この人は……いつも私に優しかった)


捕えられた時、忠臣が遊郭に売り飛ばそうと言うのを、総士は阻んでくれた。
選びようのない選択肢ではあったが、彼の言う通り、妻になると決めたのは琴自身だ。


そして初夜の床でも、琴が怖がらないように精一杯優しくしてくれた。
食事をとらない琴を気遣い、キャラメルをくれた。
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