今宵、エリート将校とかりそめの契りを
求め合う心
総士を襲った男が誰か――。


おそらく忠臣は、琴と同じ推測をしていたのだろう。
昼間は総士の部屋に行くようにと言った彼が、琴への態度を一転して硬化させ、彼女が総士に付き添うのを猛反対した。


総士は総士で、昨夜の琴とのやり取りが引っかかっているのだろう。
琴から顔を背け、『部屋に戻れ』の一点張りだ。


しかし琴は頑として引かなかった。
二人に『駄目だ駄目だ』と言われても、琴は強い決意を持って、今夜総士を待っていたのだ。
話をできる状況ではなくとも、自室にのこのこ引き下がりたくはなかった。


芯の強い本来の頑固さを見せる琴に、忠臣が苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちした。
そのタイミングで、琴は大きく息を吸ってから、胸を張って堂々と言い放った。


「私は総士さんの妻です。夫に付き添うのを、なぜあなたに止められなければならないのですか!」


日付も変わった深夜。
総士の寝室で続いた押し問答は、琴のその一言で、忠臣が渋々引き下がる形で決着がついた。


ベッド横のサイドテーブルに湯を張った桶と手拭いを置き、続き間から椅子を一脚引いてきて、琴はそこに座った。
寝室の隅には、女中に運んでもらったストーヴが置かれている。
中で燃え立つ赤い炎が、広い寝室の空気を温めてくれる。
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