今宵、エリート将校とかりそめの契りを
しかし、総士の寝息は、徐々に浅く速くなっていく。
彼の額には、うっすらと脂汗が浮かんでいた。


痛み止めの効果が薄れてきたことに気付き、琴は慌てて気を引き締めた。
急いで身体を起こし、手拭いを湯にくぐらせ、固く絞る。
手を伸ばして総士の額を拭うと、彼は小さな呻き声をあげ、眉間に深い皺を刻んだ。


総士が眠りに落ちたのは、琴の前で油断したわけでも、警戒を解いたわけでもない。
きっと、もっとずっと前から痛みで気が遠くなりそうになるのを堪えていて、まさに力尽きたのだろう。


総士は琴に、妻だ、結婚だと言葉に表すが、それは上辺でしかない。
こんな時でも、琴に心を許してはくれない。
やるせない想いで鼓動がトクンと震えた時、突如琴の胸に、昨夜、総士に怒鳴りつけられた言葉が過った。


『俺がなにをどうしても、お前の心は開かない……端から無駄だということはよくわかった』


「っ……!」


大きく鼓動が音を狂わせ、琴は思わず手拭いを持った手を引っ込めた。


(私の、心?)


総士の言葉を頭の中で反芻して、琴は激しく戸惑いながら、自分に問いかけてみる。
それに対して答えは出せないけれど、琴の胸はドキドキドキと勢いよく加速し始めた。


彼の言葉。自分の心を焦らす想い。
琴は今、気付いてしまった。


総士と琴―—。
二人とも、互いに求めているのは、同じものだ、と。
< 130 / 202 >

この作品をシェア

pagetop