今宵、エリート将校とかりそめの契りを
右肩をガチガチに固定する白い包帯もそのまま。
しかし浴衣が汗を吸った様子はない。


「……?」


不思議に思いながらさらに身を起こし、額にかかる前髪を、首を振って払った。
何気なくベッドサイドに目を遣り、総士はハッと息をのんだ。


「琴」


目にしたものが信じられず、総士は一度瞬きをした。
その仕草に記憶がくすぐられ、彼女が一晩看病についてくれたことを思い出す。


「本当に、一晩……」


思わず口にした声は、寝室に漂う生温かい空気に溶け入った。
琴は床にペタンと座り込み、ベッドに上体を預けて眠っていた。


薄い夜着にナイトガウンを羽織っただけの姿。
看病の途中で睡魔に襲われた様子で、その手には湿った手拭いがしっかりと握りしめられている。


寝室の片隅に置かれたストーヴの火は、朝までもたずに消えてしまったようだ。
夜中温められていたからか、寝室はこの季節の朝にしては温かいが、このままにしておいては、琴が風邪をひいてしまう。
しかし。


(片腕じゃ、抱えられん……)


普段なら軽々できることだが、今総士が使えるのは左腕一本だ。
琴が眠ったままの状態で、ベッドに横たえてやるのはどう考えても難しい。
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