今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士はガシガシと頭を掻き、溜め息をついて諦めた。


彼女とは反対のベッドサイドに足を下ろす。
ベッドの足元を回り込み、眠る琴の背に回った。


琴は左のこめかみをベッドに預け、顔を横に向けて眠っている。
わずかに唇を開き、穏やかな寝息を立てる彼女の寝顔は、まだ幼くあどけない。


(久しぶりにゆっくり見たな。……琴の寝顔)


最後はいつだったかと考える。
自分の記憶を探るうちに、総士の口元は綻んでいた。


毛布を手に取り、琴の横に静かに膝をついた。
左手だけで苦労しながら、彼女の細い肩にそっと毛布をかける。


起こさぬよう、すぐに離れようと片膝を立てながら琴の顔を見つめ、総士は目が離せなくなった。
無意識に唇を結び、彼女の肩から浮かせた左手を、一度ギュッと握りしめる。


「……琴」


小さく低い声で名前を呼びかけながらも、目を覚ますな、と祈っていた。
総士は琴を覗き込むように顔を近付け、薄く開いた唇に、自分のそれを押し当てた。


少し乾いているが、彼女の唇は柔らかい。
総士はそっと目を伏せ、胸の奥の方に微かな疼きを感じながら、琴の唇を一度吸い上げて静かに離れた。
目を開けながら、ハッと小さな息を吐く。
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