今宵、エリート将校とかりそめの契りを
先ほどと変わらず穏やかな寝息を漏らす琴の唇を、軽く親指の腹で押さえつけ――。


「……!!」


一瞬にして、我に返った。


「お、俺は」


いったい、なにをした……!?


ドクンと胸が大きく跳ね上がると同時に、一気に顔に血が上る。
自分でも赤く火照るのを感じ、声をあげそうになって慌てて口を手で覆った。


勢いよく顔を背け、琴の後ろを大股で通り抜ける。
そのまま、一度も振り返ることなく寝室のドアを開け、ほとんど逃げるように続き間に飛び出した。


「っ……なにやってんだ、俺」


背中で押すようにしてドアを閉め、総士は顔を伏せて溜め息をついた。
サラッと揺れる前髪を生え際から掻き上げ、ギュッと握りしめた、その時。


「なにやったんですか?」

「!?」


質問を投げかけられたことにギョッとして、総士は勢いよく顔を上げた。
いつからそこにいたのか、既にしっかりとスーツを纏った忠臣が、ソファに座り足を組み上げていた。


「た、忠臣っ!?」

「おはようございます、総士様。そのご様子ですと、奥方様は一晩しっかり看病してくださったようで」


総士の声は無様にひっくり返った。
< 134 / 202 >

この作品をシェア

pagetop