今宵、エリート将校とかりそめの契りを
琴の肩から落ちた毛布は、もちろん彼がかけてくれたのだろう。
床から拾い上げ、四つに折って畳んでから、なんとなく胸にギュッと抱きしめた。


伝わってくる温かさが総士の体温のように感じて、胸がトクンと小さな音を立てて跳ねる。
そんな自分に慌てて毛布をベッドに戻し、琴は勢いよく立ち上がった。
ガウンを羽織り直し、寝室を出る。


続き間を横切り、ドアから廊下にひょこっと顔を覗かせる。
少しきょろきょろしていると、ちょうどよく女中が一人通りかかった。
彼女に声をかけ、総士の所在を確認すると。


「昨夜の件をご報告に、陸軍省に向かわれましたよ」


予想通りの答えを聞いて、琴は肩を落としながら溜め息をついた。


「奥様、もしよろしければ、ストーヴや桶を片付けますが」


様子を窺う女中に礼を言って、琴は彼女を中に誘った。
寝室に入り、両手でストーヴを持った女中が、「よいしょ、よいしょ」と、廊下に向かって行く。


琴はすっかり冷たくなった水が張った桶を手に、続き間に出る。
再び室内に戻ってきた女中に、桶を委ねた。


「ありがとう」


礼を言うと、女中が思い出したように、「あ」と口を丸く開けた。


「そうそう。奥様、総士様から言付けが」

「え?」
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