今宵、エリート将校とかりそめの契りを
相手が油断するのを待って、根比べの夜を過ごさなくていい。
二人が求めるのは、相手の警戒を解くことじゃなくて、心を開くことなのだから――。


やがて女中が戻ってきて、琴は着替えを受け取った。
今日も琴の為に用意されたのは、洋服だ。


ここに来るまで身に着けたことのない洋服にも、琴はすっかり慣れてしまった。
スカート丈が短くても、着物に比べて軽いし、なによりとても動きやすい。
身支度を終え、総士の部屋を後にしようとして、


「……え?」


何気なく目を向けた彼の机の上に、見覚えのある物を見つけた。
一瞬自分の目を疑い、もう一度確認しようとして、総士の机の前に足を進める。
間近でしっかり見つめて、琴は思わず息をのんだ。


それは、間違いなく、パレードの時に琴が総士に向けた刃。
取り押さえられた時、手から落としたまま、総士に没収されていた琴の短刀だった。


(どうしてこれが、今ここに?)


総士はずっとこの部屋の机の中に、これを保管していたのだろうか。
そうだとしたら意外だ、と琴は思った。


(私が机の中を漁って、この短刀を取り戻したら……とか、考えなかったのかしら?)


あの日からずっと、琴は総士に呼ばれて、彼の部屋で寝起きしている。
彼が不在の時、琴がこの部屋で一人になったことも多々あった。
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