今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士らしくない。
随分な油断だと感じる。
琴はむしろ不審な気分で、首を傾げた。


しかし、『油断』とは違う意味で考えてみると、琴の胸はドキンと高鳴った。


「信用……してくれてた?」


たとえここに置いてあっても。
総士がいない間に、琴に取り返す機会があったとしても。
琴が彼の机を開けなければ、見つけられないし、もちろん取り戻すこともできない。


総士は不在中に琴が机を漁ったりしないと、思ってくれたのだろうか。
総士はそう信じてくれていたのではないだろうか――。


琴が自分に投げかけた疑問は、希望的観測で曖昧だったのに、彼女の胸はドキドキと急速に加速し始めた。
昨夜、傷の痛みに苦しんでいた総士に、自分はなにを言っただろう。


『信じてほしい。そう願っては、いけないですか』――。

「……だったら、言ってよ」


どうにもバツが悪く、琴は一人そんな悪態をついた。
しかし、今はただ胸がきゅんと疼く。
高鳴る胸の鼓動も苦しくて、琴はギュッと胸元を握りしめた。


琴が総士の妻となったきっかけの短刀が、今、目の前にある。
それは、確かに自分の物だ。
琴自身が総士に振り翳した刃だ。
しかし、琴はなぜだかおっかなびっくり手を伸ばし、短刀を持ち上げた。
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