今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「……心臓が止まるかと思った」


長い接吻を終え、琴の唇を解放した総士が、微かに掠れた声で呟いた。
少し低い彼の声にドキッとして、琴の胸は大きく跳ね上がる。


「上木がほんの少しでもお前の唇に触れていたら……この場で斬り殺していた」


総士が琴の肩に額をのせ、早口で畳みかけた。


「っ、総士さ……」

「あんな男に奪われず、よかった。よかった。……本当に」


総士が琴の耳元で、振り絞るような声を漏らす。
何度も繰り返される安堵の言葉が、琴の胸にも浸透していく。


(よかった……)


琴もホッとしながらも、彼の言葉に導かれるようにして、先ほどの全身が総毛立つような恐怖と嫌悪感を思い出す。
改めて背筋にゾクッとした戦慄が走り、琴は身体を小刻みに震わせた。


しかし。


「……やはり、言わずに黙っておくのは卑怯な気がする。白状する。……許せ、琴」

「え?」


総士の口調は、なぜか歯切れが悪い。
言い辛そうに謝罪をされ、琴は意味がわからずに短く聞き返した。


「どうして……? 謝るのは私の方です。総士さん、お怪我してるのに、こんなに心配かけて、私……」

「いや……実はだな、琴」


目に涙を湛えたまま言い募る琴から、総士はつっ……と明後日の方向に視線を流した。
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