今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「実は……俺はお前が寝てる間に、その……口づけをした」

「え?」

「だから許せと言った。……すまない、琴」


言っているうちに、総士の声はボソボソと聞き取りにくいものになっていく。


それでも、小さくなる彼の声に耳を近付けていた琴には、しっかりと聞こえた。
咄嗟にその意味が上手く理解できず、呆けたように目をパチパチと瞬かせる。


総士は琴から目を逸らしたまま、「すまない」とくぐもった声で謝った。
大きく目を見開きポカンと口を開ける琴に、総士も腹を括って真っすぐ向き合った。


「俺は確かに夫だが……お前の心を得られぬまま先走って、本当に申し訳ないことをしたと思っている」


総士はピンと背筋を伸ばし、凛とした表情を浮かべて、琴に告げた。


「お前の寝顔に引き込まれ、我慢ならなかった。すまん」


彼の言葉はしっかりと琴の胸に届き、彼女はゴクッと喉を鳴らす。


「お前の前では理性が効かない。……琴、俺はお前に惚れてしまった」

「っ!」


その言葉を聞いた瞬間、琴は弾かれたように、総士に真正面から抱きついた。
勢いのままドンと体当たりするような琴を片手で支えながら、総士が大きく息をのむ。
戸惑って胸元の琴を見下ろすと、彼女は総士の胸にしがみつき、肩を震わせていた。


(嬉しい……どうしよう)
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