今宵、エリート将校とかりそめの契りを
いくらか琴が立ち直っても、両親は魂が抜け落ちたように、生気のない虚ろな目をしていた。
どうしたら少しでも気を持ち直し、活気を取り戻してくれるのか。
自らが必死に明るく振舞いながらも、琴は頭も心も悩ませていた。


ところが、琴の願いも虚しく、両親は死を選んだ。
女学校から帰宅した琴を、家の大黒柱で縊死した、亡骸の両親が迎えたのは、まだほんの一月前のこと。


変わり果てた両親の姿を思い出した琴は、突如打ち鳴り始めた動悸を抑えようと胸に手を当て、ギリッと奥歯を噛みしめた。
彼女の瞳に先ほどのパレードの時と同じ、力強い光が戻ったのを見て、総士がピクリと眉を動かす。


「生かしておけば、性懲りもなく俺の命を狙ってきそうだな」


抑揚のない声で心を丸ごと見透かされ、琴は無言のまま目に力を込めた。


「早速、馴染みの遊郭に連絡を取りましょう」


ドアを背にしている忠臣が、総士に呼応して提言した。
彼の氷のように冷たい声に、琴の肩が小さく震える。


「確かに……この娘が恐れているのは、自分の死ではないだろうが」


総士は胸の前で腕組みをした。
顎を引いて琴を見下ろしたまま、逡巡するように頷く。


「腐っても、子爵令嬢です。不特定多数の男を相手にする遊女にされるのは、なによりも屈辱でしょう」
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