今宵、エリート将校とかりそめの契りを
ここに来ても、忠臣の脅しが琴の心をザラザラと逆撫でする。
琴は唇を噛みしめ、横目を流して彼を睨むのがやっとだった。


総士は忠臣の言葉に何度か小さく頷いて、同意を示す。


「俺の側近はああ言っているが。お前は、どうしたい?」

「……?」


頭上から降ってきた信じられない質問に、琴は一瞬目を瞬かせ、訝しげに眉を寄せた。


(この人、なにを言ってるの? 罰を下すのは自分なのに、私に『どうしたい?』なんて)


不審な思いは、口にせずとも、琴の顔にはっきりと浮かんでいたようだ。
彼女をジッと見据えていた総士は、それを見てフッと口角を上げてほくそ笑む。


「忠臣の言うように、遊女に仕立て上げて客を取らせるのも手だな。誰からもらったかもわからないまま、性病で命を落とす。気位の高い子爵令嬢じゃなくとも、惨めな死に目だ」

「っ……」


総士の冷酷な物言いに、琴は不覚にも顔を歪ませてしまった。
先ほどよりも速く強く打つ心臓の音が、この距離では総士にも聞こえてしまいそうだ。


「では、早速」


くるりとドアの方に向き直り、処罰の手配をしようとする忠臣を、


「いや、待て。忠臣」


総士は短い言葉で止めた。
< 28 / 202 >

この作品をシェア

pagetop