今宵、エリート将校とかりそめの契りを
ドアノブに手を置いた忠臣が、「は?」と声を発して顔だけで振り返る。


「さっきも言ったはずだ。俺の目の届くところに置いておく。放し飼いにするより安心だ」


総士は琴から目を離さず、顎を撫でながらそう答えた。


「放し飼いって……」


彼の言葉を聞いて、琴はますます眉を寄せる。


「総士様?」


忠臣でさえ、窺うように声を潜めて、総士に呼びかける。
意味がわからないと言いたげな二人の様子になぜか満足げに、総士はフッと口角を上げ目を細めた。


「なにも、遊郭で何人もの男を相手にさせる必要はない。そんなことせずとも、死を超越する屈辱を与える方法がある」

「総士様。いったい……?」


眉尻を上げてドアノブから手を離した忠臣が、カツカツと靴を鳴らし、大股で総士に近寄ってくる。
腕組みをしてそれを迎えた総士が、ニヤリと笑った。


「俺が、この娘を妻に娶る」

「なっ……!?」


平然と言いのける総士に、忠臣がギョッと目を剥いた。


「は?」


言われた琴は、異言語でも聞いたかのように、短く聞き返すだけで呆然としている。


「ちょっ……総士様、正気ですか?」


忠臣は、彼には珍しく焦りを露わに気色ばんだ。
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