今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「いくら俺でも、寝室でまで気を張り巡らせているわけじゃない。ベッドに横になっている時なら、多少なりとも隙ができる」


背を屈め、耳元に囁きかけられた言葉の意味を理解して、琴はゴクリと喉を鳴らした。
大きく見開いた目で、総士の整った綺麗な顔を、不信感を露わに見つめる。


「添い寝しろ……ということですか」

「まさか」


全身に警戒心を漲らせ、声が震えるのを必死に堪えながら訊ねかけた琴を、総士は非情にも鼻で笑って打ち捨てた。


「わからないほど子供じゃないだろう?」


色香漂う細めた目で琴を射竦めたかと思うと、総士は彼女をいきなり横抱きにして抱え上げた。


「きゃあっ!!」


足元を掬われる感覚に見舞われ、ふわりと浮き上がった琴が、短い叫び声をあげる。
しかし、総士がどこに向かっているかすぐに察して、琴はギクリと身を竦ませた。


総士の自室は二間続きになっている。
立派なソファが向い合わせに置かれた応接間のようなこの部屋の奧、半開きになっているドアの向こうに、琴の部屋より一回り大きなベッドが見えた。


「や、やだ! 下ろして……!!」


琴は腕も足もバタつかせて、必死に抵抗を試みた。
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