今宵、エリート将校とかりそめの契りを
その手が何度も総士の顔を掠めるが、彼は眉間の皺を深めるだけで、彼女を抱き上げる腕から力が緩むこともない。


「琴。無駄に痛い思いをしたくなければ、抵抗するな」


脅しのような言葉にビクッと身体を震わせた次の瞬間、琴は半分放り出されるように、総士のベッドに横たえられていた。
ギシッとスプリングが軋み、身体が揺れる感覚に怯んで、琴は固く目を閉じた。
眩暈に襲われたような不快感をやり過ごし、ハッとして目を開けると、羽織を脱いだ総士が、着物の裾を割って琴の身体を跨ぎ、膝立ちしていた。


天井からの電気を遮る彼の影が、琴の身体に大きく落ちてくる。
まるで征服されたような体勢だ。
こんな風に人を見上げたことはない。


背筋にゾクッとした戦慄が走り、琴の頭の中で危険信号が警鐘のように鳴り響いた。
反射的に身を起こし、ベッドから降りようとする琴の肩を、総士が強く掴んで止める。


「痛っ……!」


ベッドに縫い止めるように押さえつけられ、琴は一瞬苦痛に顔を歪めた。
それを見て、総士は彼女を囲い込んだまま、薄い唇を開く。


「俺は、女子供を傷めつける趣味はない。大人しくしていれば、痛い思いはさせない」

「こんな……こんなことする人の言うことなど、信用できるわけが……!!」
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