今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「これの、なにが協力だって言うの」


声にも力を取り戻した琴が、負けじと言い返してくる。


「俺は同じ女を二度抱いたことはない。女に情を寄せたくないし、今まではそれで事足りたからな」


総士はふてぶてしくそう言いのけた。
琴の瞳に、明らかな嫌悪感が過る。


「だが……お前は俺の妻だから、一度切りというわけにもいかない。俺自身、どの程度情が湧くかわからないが、少なからず油断はするだろう。お前にとっては、最高の協力だろう?」


尊大に言い放つ総士に、琴はカッと頬を染めた。


(この人を殺さない限り、私は何度も好きにされる。この仮初めは、いつまで続くの……?)


それは絶望のようでいて、なぜだか琴の心を奮い立たせた。


(今夜どうせ逃げられないなら……一度も二度も同じ。それで彼を油断させることができれば、願ってもいない好機になる)


琴は確かに、総士の隙を突いて命を奪う為に、妻になると決めた。
それに、総士が言うことも間違ってはいない。


人が一番油断して隙を見せるのは、心を許す人のそばで寛いでいる時。
それなら、総士の妻として毎晩ベッドを共にしていれば、それだけ彼の隙を突く機会が増えるということだ。
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