今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「っ、あ……」


初めて知る他人の体温と重なる肌の感触に慄き、琴は短い声を漏らした。


心の中には、これっぽっちも愛していない人に身を委ねる悲しみもあった。
もちろん、家族の仇に純潔を汚される屈辱は、彼や忠臣が口にしたほど簡単なものではない。
しかし、琴の頭の中では、自分が今一番望むものが、しっかりと形になっていた。


(お父様。お母様。お兄様……)


大事な家族を失ったばかりの琴には、今自分の身体を貪るエリート陸軍将校を自身の手で殺めること以外、大事なことはなにもなかった。


「……っ、ふ……」


切なさも悔しさも、すべて噛み殺してしまえば、初めて尽くしの感覚に翻弄され、乱れるだけだった。


どちらのものかわからなくなるほど触れ合い、同化していく身体の熱も。
引き締まった胸に抱きしめられ、限界を超えて高鳴る鼓動が、同調していく感覚も。


触れられるのが初めての琴には、他人と比べる余地もないが、総士は強引でこそあれ、乱暴ではなかった。
総士が言った通り、彼は琴に精一杯優しくしてくれたのだろう。


声こそ我慢できなかったが、琴が破瓜の痛みを耐え切れたのは、そのせいだったのかもしれない――。
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