今宵、エリート将校とかりそめの契りを
一階まで続く螺旋階段を駆け下り、真っすぐ奥へ向かう。
執務室に着くと、今度は躊躇うことなく呼び鈴を鳴らした。
そう待たずして、先ほどとは別の女中がやって来る。


総士は女中に忠臣を呼ぶよう命じ、自分は立派な執務机に回り、どっかりと椅子に腰を下ろした。
女中が出ていって程なくして、忠臣が現れた。


「おはようございます、総士様」


まだ朝早い時間だと言うのに、忠臣は既にしっかりとスーツを身に着けている。
彼は恭しく挨拶した後、総士に探るような目を向けた。


「早朝から初夜のご報告とは、総士様らしくもない」


物問いたげな視線は無視して、総士は長い足を組み上げた。
床に着いた足を支点にして、くるりと椅子を回転させ、忠臣には横顔を向ける。


「忠臣。俺は昨夜の報告の続きが聞きたいだけだ」


ムッと口を曲げる総士を見て、忠臣は眉尻を上げてニヤリと笑った。


「浮かれているのかと思いましたが」

「なにを愚かな。俺が琴に隙を見せてどうする」


憤慨して言い返す総士を、忠臣は小首を傾げて遠慮なく眺める。


「……とりあえず、初夜は滞りなく終えられたようですね」


忠臣がにやけた笑みを引っ込めるのを横目に、総士は何度か曖昧に首を縦に振ってみせた。
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