今宵、エリート将校とかりそめの契りを
当然のようにサラリと言われ、琴の胸はさらにドキドキと打ち鳴り始めた。


(な、なんで私、ドキドキしてるの!?)


自分に混乱して、琴は無意味に目を泳がせた。
しかし、総士の方は胸の前で腕組みをして、琴の反応を待っている。


(名前で呼ぶだけ。そんなの、正一さんを呼ぶのとなにも違いはないのに、どうして……)


鼓動を高鳴らせている自分がわからない。
琴は『特別なことではない』と自分に言い聞かせながら、一度大きく息を吸った。


「……総士、さん」

「なんだ?」


琴にしてみれば、結構な勇気を出して名前を呼んだのに、総士の方は表情も変えずに訊ね返してくる。
琴は胸に動揺を広げながら、「は?」と聞き返した。
それに、総士は再びククッと笑う。


「もともと、お前が俺に用があったんじゃなかったのか?」

「あ」


鋭い指摘を受け、琴の頬がカアッと赤く染まった。
名前の呼び方一つで胸を高鳴らせ、まさになんの為に呼びかけたか、すっかり頭から抜け落ちていた。


(恥ずかしい。私、なんで……)


寝室にさほど明るさがないのが救いだった。
真っ赤に染まった顔を、総士に見破られずに済む。
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