今宵、エリート将校とかりそめの契りを
そのせいもあって、友人に会いたいという気持ちが高まったのだろうか。


琴が最後に女学校に行ったのがいつかわからないが、両親の死後、まともに通学できたとは思わない。
しかも、正式な祝言を終えて名実共に総士の妻となれば、もう学校に行くことはないだろう。


「学校に、行きたいのか」


大正のこの時代、多くの女子は女学校に進学しても数年で中退してしまい、卒業できないのも不思議ではない。


「そりゃあ……友人もいますし。同級生はほとんど結婚して辞めてしまい、少ないですけど」


琴は微妙に目を逸らし、無意味に指を組み合わせてボソボソと呟く。
それを聞いて、総士は小さく肩を動かしてクッと笑った。


「そうだった。中退の理由は結婚だったな。確か、美人ほど結婚が早いとか」

「……私はもう最終学年です。ここまで来たら、卒業できると思ってました」


総士の笑いを皮肉ととったのか、琴は頬を膨らませてわかりやすく不機嫌に返事をした。


「つまり総士さんは、とんだ残り物を拾ったってことですね」

「残り物には福があると言うじゃないか」

「福どころか、私は厄災です」

「お前の、俺への殺意はな。それさえなければ、俺の福はお前で上等だ」
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