今宵、エリート将校とかりそめの契りを
琴は、がっかりと沈んだ顔を隠すように俯く。


寝室に、気まずく重苦しい空気が立ち込める。
それを断ち切るように、総士は大きな息を吐いた。


「食事会、疲れたろう。寝よう、琴」


意識して声のトーンを明るく保ち、総士は掛布団を持ち上げた。
隣に琴を誘う。


「あ、はい……」


返事はしたものの、琴は躊躇うように目を伏せた。
そして次の瞬間、思い切ったように身体を滑り込ませる。


「あの、総士さん……」

「お休み。琴」


彼女が躊躇いがちに呼びかけるのを、総士は遮った。
ベッドサイドに置かれたライトの鎖を引くと、寝室にふわっと闇が落ちてくる。


「……お休みなさい」


返事を聞いて寝返りを打ち、総士は彼女に背を向けた。
背後で衣擦れの音が聞こえる。
肩越しに窺うと、琴の艶やかな黒髪が一番に視界に映った。


闇に包まれた寝室は静かだ。
お互いに呼吸音を憚り、息を殺す。
どちらかが先に寝るまで、二人の夜は背中合わせの探り合いだ。


(彼女に心を開かせなければ、なにも聞き出せないと言うのに。やることなすこと、裏目に出る。ますます遠くなるな……)


自嘲するように顔を歪め、総士は目を閉じた。


陸軍パレードの日に琴を娶り、その夜このベッドに入れ、初めての契りを交わしてから七日が経つ。
それ以来、総士は琴に触れていなかった。
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