今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士は約束通り、上木呉服商の女主人と娘の佐和子の二人を、名取家に呼び寄せてくれた。
「琴! あなたこの間より痩せたわ。ちゃんと食事させてもらってる?」
西洋風の美しい庭園に面した、採光の良いサロンに姿を現した洋装の琴を見て、先に通されていた佐和子がソファから立ち上がった。
ドア口に駆け寄ってきて、泣きそうな顔で琴を抱きしめる。
「大丈夫よ、佐和ちゃん。よくしてもらってるから」
佐和子の背に手を回し、その身体を抱きしめ返す。
琴は鼻の奥がツンとするのを堪えながら、なんとか返事をした。
この間、門を隔てて言葉を交わしてから、実に十日が過ぎていた。
琴の両親が亡くなるまでは、ほとんど毎日学校で会っていた二人にとって、一度も顔を合わせない十日は長過ぎた。
再会を喜ぶ二人を眺めていた佐和子の母、上木呉服商の女主人が、二人にそっと近付く。
「琴ちゃん。いただいた時間は少ないから、早速反物を選んでちょうだい」
そう言われて佐和子との抱擁を解き、琴はサロンの奥に顔を向ける。
そこには、お目出度い祝言に相応しい華やかで美しい柄の反物が、既に所狭しと広げられていた。
手に取らずともわかる。
どれも上等な品ばかりだ。
「琴! あなたこの間より痩せたわ。ちゃんと食事させてもらってる?」
西洋風の美しい庭園に面した、採光の良いサロンに姿を現した洋装の琴を見て、先に通されていた佐和子がソファから立ち上がった。
ドア口に駆け寄ってきて、泣きそうな顔で琴を抱きしめる。
「大丈夫よ、佐和ちゃん。よくしてもらってるから」
佐和子の背に手を回し、その身体を抱きしめ返す。
琴は鼻の奥がツンとするのを堪えながら、なんとか返事をした。
この間、門を隔てて言葉を交わしてから、実に十日が過ぎていた。
琴の両親が亡くなるまでは、ほとんど毎日学校で会っていた二人にとって、一度も顔を合わせない十日は長過ぎた。
再会を喜ぶ二人を眺めていた佐和子の母、上木呉服商の女主人が、二人にそっと近付く。
「琴ちゃん。いただいた時間は少ないから、早速反物を選んでちょうだい」
そう言われて佐和子との抱擁を解き、琴はサロンの奥に顔を向ける。
そこには、お目出度い祝言に相応しい華やかで美しい柄の反物が、既に所狭しと広げられていた。
手に取らずともわかる。
どれも上等な品ばかりだ。