今宵、エリート将校とかりそめの契りを
その手がカタカタと震えているのが、琴にも振動で伝わってくる。
「琴。兄様はね、琴をお嫁さんにもらいたいって、そういうつもりで戦地から帰ってきたのよ」
琴の背後で声を潜めて言った佐和子が、グスッと鼻を鳴らした。
「えっ……?」
琴は驚いて目を丸くして、佐和子と正一を交互に見遣る。
それには正一も照れ臭そうに頬を染め、相好を崩した。
「ずっと前から好きだったんだ、琴。顕清のヤツが、『戦勝の一つも挙げられない男に琴はやらん』なんて言うから、これでも頑張ったんだぞ。先の世界戦争の手柄が認められて、俺、曹長に昇格したんだ」
「そ、そうなの? やだ。お兄様ったら……」
突然の正一の告白に動揺した琴は、彼につられて顔を耳まで赤く染めた。
彼女の反応を見て、彼は嬉しそうにはにかんだ。
しかしすぐに琴の背後の立派な屋敷に視線を向け、顔を曇らせ険しく引き締める。
琴も正一の目の動きに気付き、唇を結んで目を伏せた。
「でも、私はもう……」
「琴、大丈夫だよ。俺、軍部に告発する。例の……名取中尉の隠蔽工作のこと」
正一は琴を遮り、自分を鼓舞するように凛と声を張った。
それを聞いて、琴はギクリと肩を震わせる。
「琴。兄様はね、琴をお嫁さんにもらいたいって、そういうつもりで戦地から帰ってきたのよ」
琴の背後で声を潜めて言った佐和子が、グスッと鼻を鳴らした。
「えっ……?」
琴は驚いて目を丸くして、佐和子と正一を交互に見遣る。
それには正一も照れ臭そうに頬を染め、相好を崩した。
「ずっと前から好きだったんだ、琴。顕清のヤツが、『戦勝の一つも挙げられない男に琴はやらん』なんて言うから、これでも頑張ったんだぞ。先の世界戦争の手柄が認められて、俺、曹長に昇格したんだ」
「そ、そうなの? やだ。お兄様ったら……」
突然の正一の告白に動揺した琴は、彼につられて顔を耳まで赤く染めた。
彼女の反応を見て、彼は嬉しそうにはにかんだ。
しかしすぐに琴の背後の立派な屋敷に視線を向け、顔を曇らせ険しく引き締める。
琴も正一の目の動きに気付き、唇を結んで目を伏せた。
「でも、私はもう……」
「琴、大丈夫だよ。俺、軍部に告発する。例の……名取中尉の隠蔽工作のこと」
正一は琴を遮り、自分を鼓舞するように凛と声を張った。
それを聞いて、琴はギクリと肩を震わせる。