今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「琴っ!!」


最後に一度、一際強い力で揺さぶってから、佐和子が琴の名を悲痛な面持ちで叫んだ。
身体の揺れが治まっても、琴はがっくりとこうべを垂れている。
二人の視線を一身に浴びて、自分の心に問う。


(私はなにを信じて、なにに導かれて心を決めればいいんだろう)


大事な家族の仇討ちができるのであれば、総士を殺めることも厭わなかった。
その後どんな沙汰を受けることになっても、自分の命を差し出すのなら本望だと思っていた。
だと言うのに今の自分は、佐和子と正一がこれだけ言ってくれても、彼らに頷き返すこともできない。


『あなた絆されてるだけよ!』


佐和子の叫びが、鼓膜に刻み込まれたかのように何度も木霊し、琴の心を根っこから抉る。


(絆された? 私はあの人に情を持ってしまったの……?)


自分でも半信半疑で問いかけた言葉に、琴は困惑した。


「そんな。まさか……」


琴は地面に視線を落とし、落ち着きなく目を泳がせた。
無意識に口を突いて出た声は掠れ、自分の耳でも酷く聞き取りにくかった。


家族の仇である総士を悪い人だと思えなくなるほど、琴の心は彼に乱され、激しく揺れ動いている。
琴は、それを認めざるを得なかった。
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