幼馴染はイケメンです
茜と京介




2アウト
ランナー無し

フルカウント


グラウンドに陽炎が立ち

ジリジリ暑い


腰を落として構える

グローブは下から上
呪文のように唱える

右肘がズキンと痛む


後一球、後一球だけ我慢して
そしたらもうボールは握らないから・・・
祈るようにピッチャーの背中を見た


ピッチャーの手から離れたボールが
パチーンと乾いた音を立て
キャッチャーミットに吸い込まれる

主審の腕が拳を握った


『ストラーイク。バッターアウト!!
ゲームセット。。集合!!』






・・・・・・
・・・





夏休み前の交流戦は
久々の緊迫した試合だった


私、小笠原茜《おがさわらあかね》

桐葉学園大学の二回生

父と兄二人の影響で小学校一年生から
地元のソフトボールクラブに所属していた

中学校は偶々女子ソフトボール部のある学校
高校は態々女子ソフトボール部のある学校を選んだ

十二年続けたソフトボールを

大学で完結したいと両親を説得して今の大学を受験した

ソフトボール以外のことなんて
全く知らずに走ってきた私に

異変が起きたのは大学入学から一年後だった

投げるという動作だけで
痛みが出るようになった右肘

諦めきれない気持ちからメンテナンスを頑張っていたけれど
騙し騙しやってきた右肘が
悲鳴をあげたのは去年の暮れのことだった


一ヶ月に一度
実家近くの病院へリハビリの為に戻り
治療を続けてきたのに
遂にドクターストップがかかった


『軽いキャッチボールくらいなら
一日数分ならしても良いよ』


整形外科の先生は簡単に口にしたけれど

ソフトボールも出来ないなら
キャッチボールなんてする訳がない

十三年余りの選手生活
振り返るのが辛くて・・・

退部届を監督に出したあとで

練習前に部室に貼りだしてもらうようにお願いした部員宛の手紙に

苦笑いした監督も
『実家でリフレッシュしてこい』
と嫌な役を引き受けてくれた

メンバーにサヨナラも言わず
いつものように笑顔で部室を出た


外に出ると男子ソフト部の連中が集まっていた


「茜!今日も良い動きしてたぞ!
さすがだな」


幼馴染の松浦京介《まつうらきょうすけ》だ

真っ黒に日焼けした肌に
真っ白な歯を見せて笑ってる

京介とは小・中・高校そして大学までずっと同じ
更に一人暮らしのアパートも隣同士だ


小学校の時に所属していたクラブは男女合同チームだったから
私がセカンドで京介がショート
お互い持ちつ持たれつの関係



特に希望もなかったけど
女子ソフトボール部があることだけで
高校三年になって桐葉学園大学への受験を決めた


「茜、お前、大学の希望調査書出した?」


業間で早弁をしながら聞く京介に
桐葉受験を伝えると


「じゃあ俺も」


簡単にそう言った


「あのさ~あんた馬鹿だから受かんないよ」


大笑いすると真っ赤な顔で反論してきた


「力業で受かるに決まってんだろ?見てろよ!」


どこからくる自信なのか?
受かりっこないと馬鹿にした私は
漸くこいつと離れられると密かに期待もした

それなのに・・・

合格発表の日『受かったぞ』と
速攻電話をかけてきた京介によって

また四年こいつのお守り確定


私の気持ちなんて知らん顔で
お互いの両親は
ご丁寧に同じアパートの隣を契約してきた



「お母さん?なんで隣?
あの馬鹿の隣なんて先が思いやられるわ」


文句を言う私に


「だって~京ちゃんが居ると安心でしょ?
親元から離れると危ないんだから~」


人の話は聞かない主義の母


一緒に家を出て講義を受け
一緒にグランドへ行き
隣同士のグランドで泥だらけになる毎日


家に帰るとお風呂に入り
出ると決まって
ピンポーン ドンドン

「茜!」

ラーメンを鍋のまま持った京介が
家に来て


「わりぃな。また2人前作ったから一緒に食べようぜ!」


私の返事の前に脇をすり抜け部屋の中へと入ってくる


「ねぇ、インスタントラーメンを
間違えて2人前作るって脳の病気じゃない?
ほら。数、数えられないとか?」


嫌味も毎日言うのに毎回無視


「聞いてんの?此処ってさ
か弱い女子大生の部屋なんだけど・・・」


「茜!座れ!伸びるぞ」


完璧無視で取り皿も出して
笑って座っている京介


「もぉ~あんたってウザいよね」


そう言いながらも
京介の作るラーメンを待ってる私



何故って?


それはね?



私、料理が苦手な残念な女子なんです・・・











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