幼馴染はイケメンです
「茜、実家にはいつ帰る?」
ラーメンをすすりながら聞かれ
「明日」と目を伏せた
「えっ?明日?だって来週試合だろ?
レギュラーのお前が抜けてどうするんだよ」
「いいの、今日退部届け出したから」
努めて平静を装った
「なっ?。お前。何言ってんの?
四月一日じゃねーぞ」
凄い勢いでむせた京介は目を見開いた
「こんな大切なこと嘘言う訳ないじゃん
肘!ここが使えないのドクターストップ」
「いつからだよ・・俺、聞いてないぜ?
今日の試合だって上手く投げてたじゃねーか」
「今日だって痛いの我慢してやってたよ」
「馬鹿!なんで俺に言わないんだよ
ずっと一緒だったろ?」
納得しない京介のせいで
ラーメンは汁気を失い冷めた
ずっと一緒だから逆に言いだせなかった
「ごめん、帰ってよ・・・
今夜は酒飲んで泣きたいからさ、一人で」
最後の『一人』を強調したのは
一緒に泣いてくれそうな勢いの京介を
追い出したいから
「なんかあったら壁叩けよ」
京介はこちらの顔を見ることなくガックリと肩を落とすと
ふやけたラーメンを鍋ごと持って帰った
。
一気にシンとする一人の部屋
十三年間一度も欠かさなかった
スパイクとグローブのメンテナンスを止めたのは
スパイクの底に詰まる黒土を
落としたくなかったから・・・
市民球場前の集合写真もユニフォームも帽子も
ソフトボールに関する物全て
エナメルバックに押し込んで
ファスナーを閉じると
堪えていた涙が
どんどん溢れてきた
聞こえるはずもないけれど
ベッドに潜り込んで顔をタオルで覆った
お酒なんて飲むはずない
ソフトボールの思い出は
私の涙で封印する
泣いたまま・・
いつしか眠っていた
・・・・・・
何度も鳴る携帯に重い目蓋を開く
ディスプレイには
[馬鹿京介]の文字
「もしもし」
(大丈夫か?)
「・・・うん」
(今日さ、俺も帰ることにしたから待ってろよ。一緒に帰ろーぜ)
「待たないよ。途中寄りたいとこあるし」
(なんでだよ待ってろよ)
「もうそろそろ、いつでも一緒ってのを止めようよ」
(なんだよ・・それ)
「じゃあね」
昨日も部室の裏で後輩からの差し入れを受け取っていた京介
馬鹿だけど明るくてイケメンで
人気者の京介はモテる
何度も告白されてるのを目にしたのに
いつも『俺はみんなのモノだ』とか言って
特定の彼女は作らなかった
そろそろ彼女にラーメン作らせてあげなきゃね
そんな気持ちが生まれたのは
巻き髪の後輩に牽制されたから
『アナタって京介先輩の何なんですか?
京介先輩はいつもアナタが優先で
幼馴染って理由だけで京介先輩を縛って、本当目障り
付き合ってないのなら京介先輩から離れて下さい』