きみに初恋メランコリー
・“カノン”
「おはよ、花音」
「あっ、おはようしおちゃん!」
背後から掛けられた声に振り向くと、友達の神崎 潮(かんざき うしお)ちゃん──通称しおちゃんが、綺麗なストレートの黒髪をなびかせながら教室に入ってきたところだった。
自分の席にかばんを置いて、廊下側後ろから2番目のわたしの席までやってくる。
そうしてにっこりと笑いながら、彼女は口を開いた。
「で、初合コンはどうだった? 彼氏候補見つけた?」
「……えーと……」
誤魔化すこともできず視線を泳がせば、見逃さなかったしおちゃんの眉がぴくりと動く。
まさか、と声を低くして、彼女は身を乗り出した。
「またいつもみたいにこわがって、なるべく近寄らないようにしてた?」
「う……」
「そんで、アドレス訊かれたりとかも、なかったの?」
「うう……」
容赦ない問いかけに、返す言葉もなくどんどんしぼんでいくわたし。
しおちゃんはそんなわたしの様子を見ながら、大きくため息をついた。