きみに初恋メランコリー
・無意識の衝動
金曜日の昼休み。俺は誰とつるむでもなく、ひとり身軽に廊下を歩いていた。
目的地は、いつもの空き教室。
花音ちゃんとゆったりした時間を過ごす、あの場所だ。
「……ん?」
教室の前にたどり着いて、そこで俺は、違和感に気づく。
今日は先に着いていると、スマホに花音ちゃんからのメッセージが入っていた。
そういうときは、俺がここに着いた時点でいつも中から軽やかなメロディが聞こえているものだけど。
けれども今は、室内から何の物音も聞こえてこない。
俺はそっと、出入口のドアをスライドさせた。
「……あ」
室内の様子を確認し、とっさに声が漏れ出てしまい慌てて口をつぐむ。
なぜなら、視線の先──蓋を閉じたままのピアノに伏せて、花音ちゃんが小さく寝息をたてていたからだ。
彼女は顔を窓の方に向けるようにしているので、こちらからはその顔が見えない。
思わず、ふ、と、笑みが浮かんだ。